でも宜《よろ》しい。復活して僕の面前で僕を売っても宜《よろ》しい。少女《むすめ》が僕の面前で赤い舌を出して冷笑しても宜しい。
「朝《あした》に道を聞かば夕《ゆうべ》に死すとも可なりというのと僕の願とは大に意義を異にしているけれど、その心持は同じです。僕はこの願が叶《かな》わん位なら今から百年生きていても何の益《やく》にも立ない、一向うれしくない、寧ろ苦しゅう思います。
「全世界の人悉くこの願を有《もっ》ていないでも宜しい、僕|独《ひと》りこの願を追います、僕がこの願を追うたが為めにその為めに強盗罪を犯すに至ても僕は悔いない、殺人、放火、何でも関《かま》いません、もし鬼ありて僕に保証するに、爾《なんじ》の妻を与えよ我これを姦《かん》せん爾の子を与えよ我これを喰《くら》わん然《しか》らば我は爾に爾の願を叶《かな》わしめんと言えば僕は雀躍《じゃくやく》して妻あらば妻、子あらば子を鬼に与えます」
「こいつは面白い、早くその願というものを聞きたいもんだ!」と綿貫がその髯《ひげ》を力任かせに引《ひい》て叫けんだ。
「今に申します。諸君は今日《こんにち》のようなグラグラ政府には飽きられただろうと思う
前へ 次へ
全40ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング