、生徒は自分の圧制が癪に触り、自分にはどうしても人気が薄い。そこで衆人《みんな》の心持は、せめて画でなりと志村を第一として、岡本の鼻柱を挫《くだ》いてやれというつもりであった。自分はよくこの消息を解していた。そして心中ひそかに不平でならぬのは志村の画必ずしも能《よ》く出来ていない時でも校長をはじめ衆人《みんな》がこれを激賞し、自分の画は確かに上出来であっても、さまで賞《ほ》めてくれ手のないことである。少年《こども》ながらも自分は人気というものを悪《にく》んでいた。
或日学校で生徒の製作物の展覧会が開かれた。その出品は重に習字、図画、女子は仕立物《したてもの》等で、生徒の父兄姉妹は朝からぞろぞろと押かける。取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆《み》なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙《えがみ》一枚に大きく馬の頭を書いた。馬の顔を斜《はす》に見た処で、無論少年の手には余る画題であるのを、自分はこの一挙に由《よっ》て是非志村に打勝《うちかと》うという意気込だから一生懸命、学校から宅に帰ると一室に籠《こも》って書く、手本を本《も
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