数学でも。しかるに天性好きな画では全校第一の名誉を志村《しむら》という少年に奪われていた。この少年は数学は勿論《もちろん》、その他の学力も全校生徒中、第二流以下であるが、画の天才に至っては全く並ぶものがないので、僅《わずか》に塁を摩そうかとも言われる者は自分一人、その他は、悉《ことごと》く志村の天才を崇《あが》め奉っているばかりであった。ところが自分は志村を崇拝しない、今に見ろという意気|込《ごみ》で頻《しき》りと励《は》げんでいた。
 元来志村は自分よりか歳《とし》も兄、級も一年上であったが、自分は学力優等というので自分のいる級《クラス》と志村のいる級とを同時にやるべく校長から特別の処置をせられるので自然志村は自分の競争者となっていた。
 然《しか》るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒の人気は、温順《おとな》しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢《ごうまん》な、喧嘩《けんか》好きの少年、おまけに何時《いつ》も級の一番を占めていて、試験の時は必らず最優等の成績を得る処から教員は自分の高慢が癪《しゃく》に触《さわ》り
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