けん》隔《へだ》たつて居《ゐ》たが自分《じぶん》は一|見《けん》して志村《しむら》であることを知《し》つた。彼《かれ》は一|心《しん》になつて居《ゐ》るので自分《じぶん》の近《ちかづ》いたのに氣《き》もつかぬらしかつた。
 おや/\、彼奴《きやつ》が來《き》て居《ゐ》る、どうして彼奴《きやつ》は自分《じぶん》の先《さき》へ先《さき》へと廻《ま》はるだらう、忌《い》ま/\しい奴《やつ》だと大《おほい》に癪《しやく》に觸《さは》つたが、さりとて引返《ひきか》へすのは猶《な》ほ慊《いや》だし、如何《どう》して呉《く》れやうと、其儘《そのまゝ》突立《つゝた》つて志村《しむら》の方《はう》を見《み》て居《ゐ》た。
 彼《かれ》は熱心《ねつしん》に書《か》いて居《ゐ》る草《くさ》の上《うへ》に腰《こし》から上《うへ》が出《で》て、其《その》立《た》てた膝《ひざ》に畫板《ぐわばん》が寄掛《よりか》けてある、そして川柳《かはやぎ》の影《かげ》が後《うしろ》から彼《かれ》の全身《ぜんしん》を被《おほ》ひ、たゞ其《その》白《しろ》い顏《かほ》の邊《あたり》から肩先《かたさき》へかけて楊《やなぎ》を洩《も》
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