分《じぶん》の傍《そば》に來《きた》り、
『をや君《きみ》はチヨークで書《か》いたね。』
『初《はじ》めてだから全然《まるで》畫《ゑ》にならん、君《きみ》はチヨーク畫《ぐわ》を誰《だれ》に習《なら》つた。』
『そら先達《せんだつて》東京《とうきやう》から歸《かへ》つて來《き》た奧野《おくの》さんに習《なら》つた然《しか》し未《ま》だ習《なら》ひたてだから何《なん》にも書《か》けない。』
『コロンブスは佳《よ》く出來《でき》て居《ゐ》たね、僕《ぼく》は驚《おどろ》いちやツた。』
 それから二人《ふたり》は連立《つれだ》つて學校《がくかう》へ行《い》つた。此以後《このいご》自分《じぶん》と志村《しむら》は全《まつた》く仲《なか》が善《よ》くなり、自分《じぶん》は心《こゝろ》から志村《しむら》の天才《てんさい》に服《ふく》し、志村《しむら》もまた元來《ぐわんらい》が温順《おとな》しい少年《せうねん》であるから、自分《じぶん》を又無《またな》き朋友《ほういう》として親《した》しんで呉《く》れた。二人[#ルビ抜けはママ]で畫板《ゑばん》を携《たづさ》へ野山《のやま》を寫生《しやせい》して歩《ある》いたことも幾度《いくど》か知《し》れない。
 間《ま》もなく自分《じぶん》も志村《しむら》も中學校《ちゆうがくかう》に入《い》ることゝなり、故郷《こきやう》の村落《そんらく》を離《はな》れて、縣《けん》の中央《ちゆうわう》なる某町《ぼうまち》に寄留《きりう》することゝなつた。中學《ちゆうがく》に入《い》つても二人[#ルビ抜けはママ]は畫《ゑ》を書《か》くことを何《なに》よりの樂《たのしみ》にして、以前《いぜん》と同《おな》じく相伴《あひともな》ふて寫生《しやせい》に出掛《でか》けて居《ゐ》た。
 此《この》某町《ぼうまち》から我村落《わがそんらく》まで七|里《り》、若《も》し車道《しやだう》をゆけば十三|里《り》の大迂廻《おほまはり》になるので我々《われ/\》は中學校《ちゆうがくかう》の寄宿舍《きしゆくしや》から村落《そんらく》に歸《かへ》る時《とき》、決《けつ》して車《くるま》に乘《の》らず、夏《なつ》と冬《ふゆ》の定期休業《ていききうげふ》毎《ごと》に必《かなら》ず、此《この》七|里《り》の途《みち》を草鞋《わらぢ》がけで歩《ある》いたものである。
 七|里《り》の途《みち》はた
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