との影が突然消えたと思うと、その曲がり角のすぐ上の古木《こぼく》、昔のままのその枝ぶり、蝉《せみ》のとまり[#「とまり」に傍点]どころまでが昔そのままなる――豊吉は『なるほど、今の児《こ》はあそこへ行くのだな』とうれしそうに笑ッて梅の樹《き》を見上げて、そして角を曲がった。
川柳《かわやなぎ》の陰になった一|間《けん》幅ぐらいの小川の辺《ほとり》に三、四人の少年《こども》が集まっている、豊吉はニヤニヤ笑って急いでそこに往《い》った。
大川の支流のこの小川のここは昔からの少年《こども》の釣り場である。豊吉は柳の陰に腰掛けて久しぶりにその影を昔の流れに映した。小川の流れはここに来て急に幅広くなって、深くなって静かになって暗くなっている。
柳の間をもれる日の光が金色《こんじき》の線を水の中《うち》に射て、澄み渡った水底《みなぞこ》の小砂利《じゃり》が銀のように碧玉《たま》のように沈んでいる。
少年《こども》はかしこここの柳の株に陣取って釣っていたが、今来た少年《こども》の方を振り向いて一人の十二、三の少年《こども》が
『檜山《ひやま》! これを見ろ!』と言って腹の真っ赤な山※[#「魚
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