たって今はその根方《ねがた》の周囲《まわり》五抱《いつかか》えもある一本の杉が並木善兵衛の屋敷の隅《すみ》に聳《つ》ッ立ッていてそこがさびしい四辻《よつつじ》になっている。
善兵衛は若い時分から口の悪い男で、少し変物《へんぶつ》で右左を間違えて言う仲間の一人であったが、年を取るとよけいに口が悪くなった。
『彼奴《きゃつ》は遠からず死ぬわい』など人の身の上に不吉きわまる予言を試みて平気でいる、それがまた奇妙にあたる。むずかしく言えば一種霊活な批評眼を備えていた人、ありていに言えば天稟《てんりん》の直覚力が鋭利である上に、郷党が不思議がればいよいよ自分もよけいに人の気質、人の運命などに注意して見るようになり、それがおもしろくなり、自慢になり、ついに熟練になったのである。彼は決して卜者《うらない》ではなかった。
そこで豊吉はこの「ひげ」と別に交際《ゆきき》もしないくせに「ひげ」は豊吉の上にあんな予言をした。
そしてそれが二十年ぶりにあたった。あたったといえばそれだけであるが、それに三つの意味が含まれている。
『豊吉が何をしでかすものぞ、』これがその一、
『五年十年のうちには、』これがそ
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