しうわさしていた人々はみんなびっくりした。
豊吉|二十《はたち》のころの知人みな四十五十の中老《ちゅうろう》になって、子供もあれば、中には孫もある、その人々が続々と見舞にくる、ことに女の人、昔美しかった乙女《おとめ》の今はお婆《ばあ》さんの連中が、また続々と見舞に来る。
人々は驚いた、豊吉のあまりに老いぼれたのに。人々は祝った、その無事であッたを。人々は気の毒に思った、何事もなし得ないで零落《おちぶ》れて帰ったのを。そして笑った、そして泣いた、そして言葉を尽くして慰めた。
ああ故郷《ふるさと》! 豊吉は二十年の間、一日も忘れたことはなかった、一時の成功にも一時の失敗にも。そして今、全然失敗して帰ッて来た、しかしかくまでに人々がわれに優しいこととは思わなかった。
彼は驚いた、兄をはじめ人々のあまりに優しいのに。そして泣いた、ただ何とはなしにうれしく悲しくって。そしてがっかり[#「がっかり」に傍点]して急に年を取ッた。そして希望なき零落の海から、希望なき安心の島にと漂着した。
かれの兄はこの不幸なる漂流者を心を尽くして介抱した。その子供らはこの人のよい叔父にすっかり、懐《なつ》い
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