ども僕は飲《のむ》のです。それが僕の秘密なんです。如何でしょう、僕と貴様と斯《こう》やって話をするのも何かの運命です、怪《あやし》い運命ですから、不思議な縁ですから一つ僕の秘密の杯を受けて下さいませんか、え、如何でしょう、受けて下さいませんか。」という言葉の節々、其《その》声音《こわね》、其眼元、其顔色は実《げ》に大《おおい》なる秘密、痛《いたま》しい秘密を包んで居《い》るように思われた。
「よろしゅう御座います、それでは一つ戴《いただ》きましょう。」と自分の答うるや直《す》ぐ彼は先に立《たっ》て元の場処《ばしょ》へと引返えすので、自分も其|後《あと》に従った。

      二

「これは上等のブランデーです。自分で上等も無いもんですが、先日上京した時、銀座の亀屋《かめや》へ行って最上のを呉《く》れろと内証《ないしょう》で三本|買《かっ》て来て此処《ここ》へ匿《かく》して置いたのです、一本は最早《もう》たいらげ[#「たいらげ」に傍点]て空罎《あきびん》は滑川《なめりがわ》に投げ込みました。これが二本目です、未《ま》だ一本この砂の中に埋《うず》めてあります、無くなれば又買って来ます。」
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