密を覗《うか》がって可《よ》いと思いますか。」と彼は益《ますます》怪げな笑味《えみ》を深くする。
「可《よ》いとは思いません。」
「それなら何故《なぜ》僕の秘密を覗《うかが》いました。」
「僕は此処《ここ》で書籍《ほん》を読むの自由を持《もっ》て居ます。」
「それは別問題です。」と彼は一寸《ちょっと》眼を自分の書籍《ほん》の上に注いだ。
「別問題ではありません。貴様が何《な》にを為《し》ようと僕が何を為《し》ようと、それが他人《ひと》に害を及ぼさぬ限りはお互の自由です。若《も》し貴様《あなた》に秘密があるなら自《みず》から先《ま》ず秘密に為《し》たら可《よ》いでしょう。」
 彼は急にそわ/\して左の手で頭の毛を揉《むし》るように掻《か》きながら、
「そうです、そうです。けれども彼《あ》れが僕の做《な》し得るかぎりの秘密なんです。」と言って暫《しば》らく言葉を途切《とぎら》し、気を塞《つ》めて居たが、
「僕が貴様を責めたのは悪う御座《ござ》いました、けれども何乎《どうか》今御覧になったことを秘密に仕《し》て下さいませんかお願いですが。」
「お頼《たのみ》とあれば秘密にします。別に僕の関し
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