ば》し、彼は忽《たちま》ち眼を砂の上に転じて、一歩一歩、静かに歩きだした。されども此《この》窪地《くぼち》の外に出ようとは仕《し》ないで、たゞ其処らをブラブラ歩いて居る、そして時々|凄《すご》い眼で自分の方を見る、一たいの様子が尋常でないので、自分は心持が悪くなり、場所を変る積《つもり》で其処を起《た》ち、砂山の上まで来て、後《うしろ》を顧《かえりみ》ると、如何《どう》だろう怪《あやし》の男は早くも自分の座って居た場処に身体《からだ》を投げて居た! そして自分を見送って居る筈《はず》が、そうでなく立《たて》た膝《ひざ》の上に腕組をして突伏《つッぷ》して顔を腕の間に埋《うず》めて居た。
 余りの不思議さに自分は様子を見てやる気になって、兎《と》ある小蔭《こかげ》に枯草を敷て這《は》いつくばい、書《ほん》を見ながら、折々頭を挙げて彼《か》の男を覗《うかが》って居《い》た。
 彼はやゝ暫《しばら》く顔を上《あげ》なかった。けれども十分とは自分を待《また》さなかった、彼の起《たち》あがるや病人の如《ごと》く、何となく力なげであったが、起《た》ったと思うと其《その》儘《まま》くるり[#「くるり」
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