り》まで散歩して、さて砂山に登ると、思《おもい》の外、北風が身に沁《しむ》ので直《す》ぐ麓《ふもと》に下《おり》て其処《そこ》ら日あたりの可《よ》い所、身体《からだ》を伸《のば》して楽に書《ほん》の読めそうな所と四辺《あたり》を見廻《みま》わしたが、思うようなところがないので、彼方此方《あちらこちら》と探し歩いた、すると一個所、面白い場所を発見《みつ》けた。
砂山が急に崩《ほ》げて草の根で僅《わずか》にそれを支《ささ》え、其《その》下《した》が崕《がけ》のようになって居《い》る、其|根方《ねかた》に座って両足を投げ出すと、背は後《うしろ》の砂山に靠《もた》れ、右の臂《ひじ》は傍らの小高いところに懸《かか》り、恰度《ちょうど》ソハに倚《よ》ったようで、真《まこと》に心持の佳《よ》い場処《ばしょ》である。
自分は持《もっ》て来た小説を懐《ふところ》から出して心|長閑《のどか》に読んで居ると、日は暖《あたた》かに照り空は高く晴れ此処《ここ》よりは海も見えず、人声も聞えず、汀《なぎさ》に転《ころ》がる波音の穏かに重々しく聞える外《ほか》は四囲《あたり》寂然《ひっそり》として居るので、何時《
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