め》国の為勇ましく戦い、命に代えて父の罪を償いわが祖先の名を高め候わんことを返すがえすも頼み上げ候
 せめて士官ならばとの今日のお手紙の文句は未練に候ぞ大将とて兵卒とて大君の為国の為に捧《ささ》げ候命に二はこれなく候かかる心得にては真《まこと》の忠義思いもよらず候兄はそなたが上をうらやみせめて軍夫《ぐんぷ》に加わりてもと明け暮れ申しおり候ここをくみ候わば一兵士《いっぺいし》ながらもそなたの幸いはいかばかりならんまた申すまでもなけれど上長の命令を堅く守り同列の方々とは親しく交わり艱難《かんなん》を互いにたすけ合い心を一にして大君の御為|御《おん》励みのほどひとえに祈り上げ候
以上は母が今わの際《きわ》の遺言と心得候て必ず必ず女々《めめ》しき挙動《ふるまい》あるべからず候
なお細々《こまこま》のことは嫂《あによめ》かき添え申すべく候
[#ここで字下げ終わり]
右|認《したた》め候て後母様の仰せにて仏壇に燈《ともしび》ささげ候えば私《わたくし》が手に扶《たす》けられて母様は床の上にすわりたまいこの遺言父の霊にも告げてはと読み上げたもう御《おん》声悲しく一句読みては涙ぬぐい一句読みてはむせびた
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