遺言
国木田独歩
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)戦《いくさ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多分|太沽《たいくう》沖に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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今度の戦《いくさ》で想《おも》い出した、多分|太沽《たいくう》沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀《よこすか》なるある海軍中佐の語るには、
わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口《かえんこう》上陸を保護するため、ベカ島の陰に集合していた時である。その日の事であった。自分は士官室で艦長始め他の士官諸氏と陛下万歳の祝杯を挙《あ》げた後、準士官室に回り、ここではわが艦長がまだ船に乗らない以前から海軍軍役に服していますという自慢話を聞かされて、それからホールへまわった。
戦時は艦内の生活万事が平常《ふだん》よりか寛《ゆるや》かにしてあるが、この日はことに大目に見てあったからホールの騒ぎは一通りでない。例の椀大《わんだい》のブリキ製の杯《さかずき》、というより
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