う児《こ》の丸顔、色黒けれど愛らし。されどそはかならずよく燃ゆとこの群の年かさなる子、己《お》のが力にあまるほどの太き丸太を置きつついえり。その丸太は燃えじと丸顔の子いう。いな燃やさでおくべきと年上の子いきまきて立ちぬ。かたわらに一人、今日は獲もののいつになく多きようなりと、喜ばしげに叫びぬ。
 わらべらの願いはこれらの獲物《えもの》を燃やさんことなり。赤き炎《ほのお》は彼らの狂喜なり。走りてこれを躍《おど》り越えんことは互いの誇りなり。されば彼らこのたびは砂山のかなたより、枯草の類《たぐ》いを集めきたりぬ。年上の子、先に立ちてこれらに火をうつせば、童らは丸く火を取りまきて立ち、竹の節の破るる音を今か今かと待てり。されど燃ゆるは枯草のみ。燃えては消えぬ。煙のみいたずらにたちのぼりて木にも竹にも火はたやすく燃えつかず。鏡のわく[#「わく」に傍点]はわずかに焦《こ》げ、丸太の端よりは怪しげなる音して湯気を吹けり。童らはかわるがわる砂に頭押しつけ、口を尖《とが》らして吹けどあいにくに煙眼に入りて皆の顔は泣きたらんごとし。
 沖《おき》ははや暗うなれり。江の島の影も見わけがたくなりぬ。干潟《ひ
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