集まりて何事をか評議まちまち、立てるもあり、砂に肱《ひじ》を埋めて頬杖《ほおづえ》つけるもあり。坐れるもあり。この時日は西に入りぬ。
 評議の事定まりけん、童らは思い思いに波打ぎわを駈けめぐりはじめぬ。入江の端《はし》より端へと、おのがじし、見るが間に分《わか》れ散れり。潮《うしお》遠く引きさりしあとに残るは朽《く》ちたる板、縁《ふち》欠けたる椀《わん》、竹の片《きれ》、木の片、柄の折れし柄杓《ひしゃく》などのいろいろ、皆な一昨日《おととい》の夜の荒《あれ》の名残《なごり》なるべし。童らはいちいちこれらを拾いあつめぬ。集めてこれを水ぎわを去るほどよき処、乾ける砂を撰《えら》びて積みたり。つみし物はことごとく濡《うるお》いいたり。
 この寒き夕まぐれ、童らは何事を始めたるぞ。日の西に入りてよりほど経《へ》たり。箱根|足柄《あしがら》の上を包むと見えし雲は黄金色《こがねいろ》にそまりぬ。小坪《こつぼ》の浦《うら》に帰る漁船の、風落ちて陸近ければにや、帆《ほ》を下ろし漕ぎゆくもあり。
 がらす[#「がらす」に傍点]砕け失せし鏡の、額縁《がくぶち》めきたるを拾いて、これを焼くは惜しき心地すとい
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