かはゆうじし》を送らんと、朝《あさ》未明《まだき》に起《おき》出《いで》て、顔《かほ》洗《あら》ふ間《ま》も心せはしく車を急《いそが》せて向島《むかふじま》へと向《むか》ふ、常《つね》にはあらぬ市中《しちう》の賑《にぎ》はひ、三々五々|勇《いさ》ましげに語《かた》り合《あ》ふて、其方《そのかた》さして歩《あゆ》む人は皆《みな》大尉《たいゐ》の行《かう》を送るの人なるべし、両国橋《りやうごくばし》にさしかゝりしは午前七時三十分、早《は》や橋の北側《きたがは》は人垣《ひとがき》と立《たち》つどひ、川上《かはかみ》はるかに見やりて、翠《みどり》かすむ筑波《つくば》の山も、大尉《たいゐ》が高き誉《ほまれ》にはけおされてなど口々《くち/″\》いふ、百|本《ぽん》杭《ぐひ》より石原《いしはら》の河岸《かし》、車の輪も廻《まは》らぬほど雑沓《こみあひ》たり、大尉《たいゐ》は予《よ》が友《とも》露伴氏《ろはんし》の実兄《じつけい》なり、また此行中《このかうちう》に我《わが》社員《しやゐん》あれば、此勇《このいさ》ましき人の出を見ては、他人の事と思はれず、我身《わがみ》の誉《ほまれ》と打忘《うちわす》れ
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