に直に贊成する譯には參らぬが、兔に角東洋人の發明は、中々大したものに相違ないと想はれる。が併し一歩退いて考へると、どうも東洋人の通弊として、研究心に乏しい結果、折角の發明も發明榮えせぬものが尠くない。製紙や印刷や羅針盤や火藥の發明は、大なる發明ではあるが、惜いことには、その家元の東洋では、發明後幾百千年を經ても、依然としてその舊態を脱却せぬ。長い年月の間に、さしたる改良進歩の跡を見得ないのであります。
所が是等の發明が一旦西洋人の手に渡ると――傳播の經路に就いては、多少不明な點もあるが――彼等の熱心なる研究によつて、忽ちその利用若くは應用の範圍を擴めて、今日の如き製紙機械・印刷機械等が出來て、大いに世界の文明を進めることとなつたので、東洋人の發明したものでも、西洋人の手を經ぬ間は、十分にその效力を發揮することが出來ぬ有樣であります。折角の發明も東洋人にとつては、寶の持腐れの觀がないでもない。誠に遺憾千萬ではあるが、事實であるから仕方がありませぬ。我が國人も東洋人として、支那人などと同樣の缺陷をもつてをらぬとも限らぬ。果して左樣な事があるならば、教育上大いに注意して、一日も早くこの缺陷を充たすやうに努力せねばならないと思ふ。是處にお集りの諸君は、多く地理や歴史の教授に當られる方々ではあるが、教育家といふ廣い意味から申せば、無論この缺陷を充すべき責任と、無關係ではなからうかと考へるのであります。
(第二) 紙の傳播や火藥の傳播の例によつて明かである通り、東洋の文化が西洋へ傳播するには、多くの場合西域地方を通過する。西洋の文化が東洋に傳播する時も、之と同樣に大抵西域地方を通過するのである。西域は丁度東洋と西洋との文化交換の中繼に當つて居る。それ故廣く世界の文化や文明の發達の跡を明瞭にするには、是非とも西域地方を度外視することが出來ぬ譯であります。
しかのみならず西域自身、その固有の立派な文化を持つて居つて、その文化が隨分古い時代から東洋に影響して居るのである。唐宋時代や元明時代に、西域文化の支那に影響を及ぼして居ることは、想像以上に多いのであります。或る意味から申すと、支那の文化――從つて幾分日本・朝鮮の文化――の發達を調べるのに、西域を度外視しては、その眞相を盡し難い程であります。殊にこの十年來新疆探檢が流行して、各文明國競うて力をここに盡して居る。その發掘物の研
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