記事の多い六國の史料は焚いたが、秦の史料は焚かぬ。
(ロ)醫藥・卜筮・農業に關係ある書籍は、民間に使用して差支ない。
(ハ)上記以外の書籍、殊に『詩經』『書經』及び諸子百家の書は、一切民間に所藏することを禁じ、必ず禁令發布後三十日以内に官省に差出さしめて、之を燒棄した。
(ニ)朝廷所屬の博士は、如何なる書籍を所藏しても差支ない。
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 故に民間一般の書籍を燒棄したのは事實であるが、煩雜なる古文を竹簡に漆で書いて、書籍を作つた當時のこととて、書籍の價も甚だ不廉で、且は携帶にも頗る不便であつたから、民間の藏書の案外貧弱であつたことは申す迄もない。先秦時代に藏書の多きことを、五車の書と稱するが、竹簡に寫した書籍が五車に滿載する程あつても、今日の印刷にすれば、誠に貧弱なものである。されば當時の學者は、大抵は書籍を貯藏するよりも、書籍を諳誦したのである。東漢時代に紙が發明され、寫書やや容易となつた頃にも、民間では依然諳誦の風を繼續して居つた。また當時『公羊傳』『穀梁傳』等の如く、專ら口傳により、未だ竹簡に載せられなんだ書籍も多かつたから、天下の書を焚くといふ條、世人の想像す
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