其位[#一]不[#レ]謀[#二]其政[#一]というて居るに、彼等は何れも無責任不謹愼なる政治論を敢てして、治安を害し、民心を惑はすのである。温良なる孔子すら、衆を聚めて奇を衒つた少正卯を誅殺したではないか。當時の政治家にとつて、處士の横議は到底其儘に看過し難い程であつた。心ある政治家は早く之を抑壓するに腐心し初めた。或者は更に進んでその檢束に着手し、且つ又處士横議の源泉となるべき書籍、即ち當時の政治に反對せる思想を載せた、書籍の處分さへ實行したものもある。秦の如きはその一例で、已に孝公の時から、民間の政治論を禁じ、犯す者は國境以外に放逐し、治安に害ありと認めた、『詩經』『書經』等の古典を焚いたことがある。
戰國の末に出た韓の韓非は、その著『韓非子』のうちに、國を治むるには、法律とその法律を執行する官吏とあれば十分である。この以外に先王の道とか、聖人の書とかの必要はない。然るに今天下到る所に、儒者と稱する者あつて、古聖の書を引いて當世の政を誹り、上下の心を惑はしむるは、甚だ不都合千萬である。先づこの儒者を除き去ることが、刻下の急務であると主張して居る。韓非と同時の秦の呂不韋も亦、その著
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