#一]亦限[#二]旬日[#一]、盡令[#二]薙髮[#一]。遵依者爲[#二]我國之民[#一]、遲疑者同[#二]逆命之寇[#一]、必※[#「宀/眞」、第3水準1−47−57][#二]重罪[#一]。若規避惜髮、巧辭爭辯、決不[#二]輕貨[#一]。該地方文武各官、皆當[#三]嚴行[#二]察驗[#一]。若有[#乙]復爲[#二]此事[#一]、涜[#二]進章奏[#一]、欲[#下]將[#二]已定地方人民[#一]仍存[#中]明制[#上]不隨[#二]本朝制度[#一]者[#甲]。殺無[#レ]赦。(24)
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かくて清朝の保護の下に立つ者は、僧侶と道士とを除くの外、皆必ず辮髮・胡服せねばならぬこととなつた。孔子の裔なる孔文※[#「言+票」、読みは「ひょう」、447−14]が、その宗家の衍聖公孔允植の爲に、孔廟の禮儀を執行するに、新制は不便多ければ、蓄髮して先王の衣冠を用ゐたしと願ひ出でて大譴責を蒙り、孔聖の裔たる故を以て、僅に死罪を免ぜられたといふ事件も、この當時のことである。金・元時代――漢人の辮髮・胡服した時代――でも、曲阜の聖裔に限つて、儒冠・儒服を著けたが、清朝では一律に辮髮・胡服を命じたので、その決心の鞏固なる一端を察知することが出來る。
然し夷を以て華を變ぜんとするこの規定は、當時の漢人――保守的自尊的で、殊に父母より受けたる身體髮膚を毀傷せざるを孝道の始と信じて居る漢人――の反感を招いたことは想像以上である。清廷も漢人の反感の大なれば大なる程、愈※[#二の字点、1−2−22]嚴重に辮髮を※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]行し、留[#レ]頭不[#レ]留[#レ]髮、留[#レ]髮不[#レ]留[#レ]頭といふ制札を、江南地方に掲示させた(25)。之に關せず漢人は猶も頑強に護髮の決心を捨てぬ。江陰の虐殺も、嘉定の屠城も、畢竟この衝突の一結果たるに過ぎぬ。南風競はずして、大勢不可と極つた時でも、頭可[#レ]斷、髮不[#レ]可[#レ]薙と豪語した左懋第がある。膝不[#レ]可[#レ]屈、髮不[#レ]可[#レ]披と壯言した余煌がある。欲[#下]將[#二]鬚髮[#一]還[#二]千古[#一]、※[#「てへん+弁」、読みは「べん」、448−6][#二]取頭顱[#一]擲[#中]九逵[#上]の句を留めた王之仁がある。勢不[#レ]可[#レ]爲、髮膚將[#レ]獻、畜固難[#レ]存、薙亦見[#レ]羞の詞を殘した傅日炯がある。更に奇拔な者には、其の頭髮を埋めて髮塚を立て、自から嚢雲髮塚銘を作つた周齊曾がある。その他海島に遁がれた者、山林に隱れた者は、一々列擧するに暇がない。昨年上海で出版された『滿夷猾夏始末記』中に、髮史の一篇がある。不充分ながら清初の辮髮に關係ある事件を集録してあつて、幾分の參考に供することが出來る。
五
更に飜つて明・清革命の際に關係ある二三歐人の記録を繙くと、漢人が如何に激しく辮髮に反對したかが一層判然する。第一に 〔d'Orle'ans〕 の『支那を征服せし韃靼二帝の歴史』は、當時の光景を次の如く描いて居る。
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辮髮・胡服の新制は、痛く漢人の反感を招いた。彼等は所在に滿洲政府に對して叛亂を起した。漢人は異族に羈絆さるるよりも、その羈絆の徽號《シンボル》として辮髮・胡服を強制さるることを、大屈辱と信じて居る。さきにその頭を斷ざらんが爲に、羊の如く柔順であつた漢人は、今やその髮を斷ざらんが爲に、虎の如く奮起した。當時若し江南の明の諸王がよく一致して、内訌を釀さなかつたら、滿人が果してよく支那を統一し得たか否かは、頗る疑問に屬したのである。(26)
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〔d'Orle'ans〕 の著書は西暦千六百八十八年の出版で、時代はやや後れて居るけれども、その記事は當時支那在住の耶蘇教士、殊に Adam Schall 即ち湯若望の報告に本《もとづ》いたもので、頗る信用すべきものである。
〔d'Orle'ans〕 の著書より一層參考に供すべき材料として、有名なる Martin Martini の『韃靼戰記』がある。Martini は漢名を衞匡國といふ。耶蘇教會の宣教師で、明・清鼎革の際の前後にかけて、約十年間南支那に滯在して、親しく當時の實地を目撃した人であるから、その記事の信憑すべきは申す迄もない。彼の『韃靼戰記』には、辮髮に關する記事尠からざる中にも、浙江省紹興府に就いて、次の如く敍述して居る。
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韃靼軍は格別の抵抗を受けずに紹興府を占領した。浙江省南半の府縣も、容易に征服し得べき形勢であつたが、然し韃靼軍が新に歸順した漢人に辮髮を強制するや否や、一切の漢人――兵士も市民も――は皆武器を執つて起ち、國家の爲よりも、皇室の爲よりも、寧ろ自家頭上の毛
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