フ一千年間に於ける正史野乘を遍ねく探つたならば、Cannibalism の例證は恐らくは山にも比し得る程と思ふ。吾が輩はかかる例證を一々探討する餘暇もなく、又かかる例證を一々羅列する必要をも感ぜぬ。ただこの期間に起つた尤も酷烈なる Cannibalism の記事二三を茲に掲げて、全貌窺測の資料に供したい。
 北宋末から南宋の初期にかけて、女眞人の入寇により、支那を擧げて紛擾の裡に陷つた。この際例によつて所在に人肉食用が流行した。就中南宋の莊綽の『※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]肋編』(『説郛』※[#「疆」のへんの「土」にかえて「一」、173−7]二十七所收)に記する所、尤も酸鼻を極めて居る。
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自[#二]靖康丙午歳(西暦一一二六)。金狄亂[#一レ]華。六七年間。山東、京西、淮南等路。荊榛千里。米斗至[#二]數十千[#一]。且不[#レ]可[#レ]得。盜賊官兵以至[#二]民居(居民?)[#一]更相食。人肉之價賤[#二]于犬豕[#一]。壯者一枚。不[#レ]過[#二]十五斤[#一]。躯暴以爲[#レ]※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]。登州范温率[#二]忠
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