[#二]其旌表[#一]矣(『欽定大清會典事例』卷四百三、旌表節孝の條)。
[#ここで字下げ終わり]
とて、特旨で旌表を加へられて居る。勿論雍正帝は今囘の處置を以て定例となすべからず、又地方官憲はよく管内の人民に、割肝輕生の愚擧を懇戒すべき旨を仰せ下されて居るが、兔に角この時以來、國初の禁令のやや弛緩されたのは爭ふことが出來ぬ。爾來二百年の間、依然として割肝※[#「圭+りっとう」、201−3]股の風が行はれ、官憲もその行爲が賣名の目的でない限り、之に旌表を加へて居る。清代の記録や新聞に、かかる例證が多く散見して居るが、煩を恐れて茲には引用すまい。二十餘年間支那に布教して、該國情に精通して居るアメリカの Arthur Smith も、その Chinese Characteristics. p. 178 に、
[#ここから2字下げ]
支那人は兩親が難治の疾病に罹る時は、その子女たる者が、自己の肉片を割き之を調理して父母に進めることが、尤も有效な療法と認めて居る。支那の新聞紙上に、時々かかる療法を實行した場合の報道が記載されてある。著者自身も、親しく母親の病氣を醫すべく、自己の股肉を割いた若者に面會したことがある。彼は宛も古武士が戰場で受けた古傷を示すが如き得意な態度で、自分にその傷痕を示した。
[#ここで字下げ終わり]
と述べて居る。
支那人は單に人肉ばかりでなく、人體の一部分、例へば人膽、人骨、人血、毛髮、爪甲等を始め、その他の奇妙なものまで、皆醫藥として效能あるものと信じて居る(『本草綱目』卷五十二、Behrens; Der Kannibalismus der Chinesen. Globus. Bd. LXXXI, Nr. 6, SS. 96−97. Groot; The Religious System of China. Vol. IV, Chap. XIV, pp. 389−405. 參看)。明代の高※[#「宀/釆」、第4水準2−8−4]といふ宦者が、生殖器を再生せしむる目的で、無數の童男を買取り、之を殺害してその腦髓を啖うた(『野獲編』卷六)といふ如き、及び之に類似せる幾多笑ふべき迷信的行爲はしばらく措き、支那人は一般に人の生血、生膽の效能に就いて、多大の信頼を以つて居る。Rennie に據ると、千八百六十五年の頃、北京西郊で罪人を處刑した時、※[#「會+りっとう」、201−17]刀手はその斬り首より噴出する鮮血に饅頭を漬し、血饅頭と名づけて市民に販賣したといふ(Peking and the Pekingese. Vol. II, pp. 243−244)。又長髮賊の亂中に、上海在住の外國商館に雇はれて居つた支那人の召使は、自己の膽力を増進する目的で、所刑された賊徒の心臟を食用したといふ(Balfour; Cyclopaedia of India. Vol. I, p. 570)。この罪人の生血、生膽等を強壯劑として珍重することに關して、支那在住の西洋人の報告も尠からず傳つて居るが(Yule and Cordier; Marco Polo. Vol. I, p. 312)、茲には引用せぬ。
罪人の心肝を使用するのは、まだよい。支那では療病の目的で、他人の生命を斷ち、その肉なりその肝なりを採取する兇行が、古來可なり行はれて居る。已に元代無名氏の『鬼董』(知不足齋叢書』本)卷十二に、左の如き記事が見當る。
[#ここから2字下げ]
嘉定戊寅(西暦一二一八)冬。廣西諸司。奏[#二]知欽州林千之食[#レ]人事[#一]。始千之得[#二]末疾[#一]。有[#二]道人[#一]。教以[#三]童男女肉。強[#二]人筋骨[#一]。遂捕[#二]境内男女十二三歳[#一]。※[#「月+昔」、第3水準1−90−47]而食[#レ]之。謂[#二]之地※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]地鴨[#一]。其家小婢妾被[#レ]食甚衆。又以[#二]厚賄[#一]使[#レ]卒。掠[#二]人虚市間[#一]。民稍知[#レ]之。皆深閉不[#二]敢出[#一]。卒無[#二]以應[#一][#レ]命。乃走[#二]其鄰横州[#一]。伏[#二]莽中[#一]掠[#二]過者[#一]。横州民呼爲[#二]紅衣人[#一]。意[#二]其盜[#一]也。告[#レ]州捕得。卒言[#二]其情[#一]。監司上[#二]諸朝[#一]。既而獄久不[#レ]決。又使[#下]大理評事孫※[#「さんずい+經のつくり」、第3水準1−86−75]。往[#二]全州[#一]置[#レ]獄勘[#上レ]之。還延歳餘。千之竟從[#二]輕典[#一]。僅追毀除[#レ]籍。配[#二]吉陽牢城[#一]而已。既而言者論[#二]※[#「さんずい+經のつくり」、第3水準1−86−75]罪[#一]。※[#「さんずい+經のつくり」、第3水準
前へ
次へ
全27ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング