W卷一に、
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諸《スベテ》……爲[#二]祖父母、父母、伯叔父母、姑※[#「女+章」、第4水準2−5−75]及舅姑[#一]。割[#レ]股(奴卑爲[#二]本主[#一]同)竝委[#二]所屬[#一]。由覆[#二]朝廷[#一]。官支[#二]絹五疋、羊兩頭田一頃[#一]。以勸[#二]孝悌[#一]。
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とあり、且つ『元史』に至元七年以後も、父母舅姑の爲に、股肉を割いた男女を旌賞した實例が疊見して居るに據ると、行孝割股不當の條文の、實際に於ける效力は疑問と申さねばならぬ。
明の太祖は實際的政治家として、中々傑出し居るが、彼は割股行孝の流弊を知つて、新に之を制限した。明初に青州日照縣の住民に江伯兒といふ者があつて、その母が病に罹つた時、自分の肉を割いて進めたが、十分の效驗がない。彼は遂に神に願掛けして、母の病が平いだら、我が子を殺すことを誓つた。後幸に母が平癒したから、彼はかねての願掛け通り、三歳になる幼兒を殺して神に謝した。地方官憲は江伯兒を母に孝なる者として、旌表すべく上聞した。所が太祖は江伯兒の行爲は人倫を絶滅せる、以ての外の非行として、大に怒り之を海南島に遠謫し、且つ禮部に命じて、將來に於ける孝行旌表の事例を詳議させた。禮部の詳議した結果は、明の何孟春の『餘冬序録摘抄』一(『紀録彙編』卷百四十八)に、次の如く記載してある。
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子之事[#レ]親。居則致[#二]其敬[#一]。養則致[#二]其樂[#一]。有[#レ]疾則拜[#二]託良醫[#一]。嘗[#二]進善藥[#一]。……若臥[#レ]氷割[#レ]股。前古所[#レ]無。事出[#二]後世[#一]。亦是間見。割[#レ]肝之擧。殘害爲[#レ]最。且|如《モシ》父母止有[#二]一子[#一]。割[#レ]股割[#レ]肝。或至[#レ]喪[#レ]生。臥[#レ]氷或至[#二]凍死[#一]。使[#二]父母無[#レ]依。宗※[#「示+方」、第4水準2−82−65]乏[#一][#レ]生。豈不[#三]反爲[#二]大不孝[#一]乎。原[#二]其所[#一][#レ]自。愚昧之徒。一時激發。及務爲[#二]詭異[#一]之輩。以驚[#レ]俗駭[#レ]世。希[#二]求旌表[#一]。割[#レ]股不[#レ]已。至[#二]於割[#一][#レ]肝。割[#レ]肝不[#レ]已。至[#二]於殺[#一][#レ]子。違[#レ]道傷[#レ]生。莫[#二]此爲[#一][#レ]甚。自今人子。遇[#二]父母病[#一]。醫治弗[#レ]愈。無[#レ]所[#二]控訴[#一]。不[#レ]得[#レ]已而臥[#レ]氷割[#レ]股。亦聽[#二]其爲[#一]。不[#レ]在[#二]旌表之例[#一]。
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朝廷はこの議を採用して、洪武二十七年(西暦一三九四)に、
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凡割[#レ]股或至[#レ]傷[#レ]生。臥[#レ]氷或至[#二]凍死[#一]。自[#レ]古不[#レ]稱爲[#一][#レ]孝。若爲[#二]旌表[#一]。恐[#二]其倣傚[#一]。通行[#二]禁約[#一]。不[#レ]許[#二]旌表[#一]。(『禮部志稿』卷二十四)。
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と發布した。されどこの禁約も支那一流の空文で、爾後明一代を通じて、依然官憲も之を旌表すれば、民間も之を奬揚する(明の張鼎思『琅邪代醉編』卷二十參看)。從つて股を割いて孝を行ふ風習が毫も衰廢せぬ。否有明三百年の間に、割股行孝の風習は、前代に比して一層流行した趣がある(Groot; The Religious System of China. Vol. IV, p. 387)。隨分皮肉な事實ではないか。
清朝では早く順治九年(西暦一六五二)に、明初の規定を復活して、
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割[#レ]股或致[#レ]傷[#レ]生。臥[#レ]氷或致[#二]凍死[#一]。恐[#二]民※[#「にんべん+方」、第3水準1−14−10]效[#一]。不[#レ]准[#二]旌表[#一](『欽定大清會典事例』卷四百三、旌表節孝の條)。
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といふ禁令を公布して居る。されどこの規定も七八十年の後には、次第にその效力を失うた。雍正六年(西暦一七二八)に、福建の巡撫から管内の孝子李盛山といふものが、肝を割きて母の病を救ひ、母の病は癒えたが、彼自身はその傷重くして遂に死んだから、この孝子に旌表を加へたいと申出た。禮部は「割[#レ]肝乃小民輕[#レ]生愚孝。向《サキニ》無[#二]旌表之例[#一]。應[#レ]不[#二]準行[#一]。」と議決したが、雍正帝は、
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朕念。割[#レ]肝療[#レ]疾。事雖[#二]不經[#一]。而其迫切救[#レ]母之心。實屬[#レ]難[#レ]得。深可[#二]憐憫[#一]。已加[#レ]恩
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