支那人最近の覺醒に重きを置き、今日の支那人は最早前日の支那人にあらずといふ。吾が輩は支那人覺醒の程度に就いて、多少疑惑をもつて居るが、若し眞に支那人が覺醒するものならば、彼等の覺醒は、自己反省から出發せなければならぬと思ふ。外に向つて軍國主義を攻撃し、民族自決を絶叫する前に、彼等自身の徳性の缺點の改造が更に一段の必要であるまいか。中國積弱の最大原因は、外的よりも内的に存在する。王陽明のいはゆる「去[#二]山中賊[#一]易。去[#二]心中賊[#一]難」で、内的改造は改造の第一義でなければならぬ。支那人自身が彼等の心中の缺點短處――例へば妥協性・猜疑心の如き――から脱却せざる間は、眞實永遠なる改造は到底期待し難かるべしと思ふ。吾が輩は支那人最近の覺醒の根本的徹底的ならんことを切望する者である。かかる根本的徹底的の覺醒こそ、日支兩國共通の幸福であらねばならぬ。
[#地から3字上げ](大正九年三月四―八日『大阪毎日新聞』所載)
底本:「桑原隲藏全集 第一卷 東洋史説苑」岩波書店
1968(昭和43)年2月13日発行
底本の親本:「東洋史説苑」
1927(昭和2)年5月10日発行
入力:はまなかひとし
校正:染川隆俊
2002年2月25日公開
2004年2月20日修正
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