ればならぬ。※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]避の制度を立てた精神は、官吏がその親族知人と比周して私を營むべしといふ、上下の猜疑を避くるに在ること申す迄もない。※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]避制度の嚴密なることは、支那人の猜疑心の深大なる證據と思ふ。

         七 支那人の猜疑心(三)

 支那の官吏は君主の猜疑と同僚の※[#「女+冒」、第4水準2−5−68]嫉の間に、一身の安全を圖るべく、われわれの想像以上の苦心を費す。賢哲保身とて、一身の安全を圖ることが、支那官吏處世の第一要義となつて居る。昔唐の宰相に婁師徳といふ名臣があつて、その弟も相當出世して地方長官となつた。かく兄弟倶に高位大官を占めては、君主同僚の嫌忌懼るべしとて、心配の餘り、婁師徳が懇々その弟に謙抑すべく注意を加へたに對して、弟が彼に向ひ、「自今雖[#三]有[#レ]人唾[#二]某面[#一]。某拭[#レ]之而已」と答へた時、婁師徳は眉を蹙めて、先方が吾面に吐き掛けた唾を、勝手に拭い取つては、却つて先方の怒を買ふものである。唾はその儘にして置いても、何時かは自然に乾く。笑顏の儘吐き掛けられた唾の
前へ 次へ
全22ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング