に分け綺麗に髮を結つて、小さい赤い人形の着物を着せる。實のいらぬ前はいい具合に羽毛がとれないからだ。男の子は山の筆[#「山の筆」に傍点]と呼んでる。水ぐらゐつけて板塀などへ書く分には書ける。
水がぬるんで來た。
田の中の水たまりに寒天樣の古鎖とも見えるぬる/\した紐を見るであらう。棒の先でそつと除けると、下に大きな蛙がかまへてゐる。砂もぐり[#「砂もぐり」に傍点]がひよろりと出て來ては、またもぐり込む。蛙は卵を番してるのだといはれる。
芹は雪間にすら顏を出す。銀いろのびらうどに包まれて、うつら/\まどろんでる猫柳の芽。それに觸るる柔かな指先の感じは母の乳首を思ひ出させる。少しすると、表皮が裂けて黄いろい花粉をつけた花房となる。私はよく佛壇の花いけに※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]した。一度、それが花となり、芽となつて切口から白い根の生えてたには驚いた。
※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]してよくつくもの、柳、ポプラ、杉、椹。
私のとこでは本讀みに來た少年達の組織した會があつて、年に一度づつ集つては小貝川の野地へ木を※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]して呉れる。※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]した年に冠水せぬ限り根ついてぐん/\延びて行く。年々※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]したのが今は大きくなつて、欝然たる山林になるのも遠い事ではない。ポプラは二十年もすると六尺まはりになる。尤もあか土では根ついても直ぐ枯れる。水には強いが風當りが惡くては鐵砲虫がつく。
鐵砲虫といへば、不思議な事がある。をとどし枯れたポプラを薪にしたところが、中には澤山のかみきり[#「かみきり」に傍点]虫の幼虫が入つてゐて、木もこれでは生きられないと思ふ程だが、中に立派なかみきり[#「かみきり」に傍点]の成虫が入つてゐた事だ。若しかしたら、冬眠の爲に元の穴へむぐり込んで死んだのかとも思ふ。蜂、虻は朽木のうろなどに冬を隱れてゐるものだが、かみきりも越年するかどうか。
植木屋は木をいぢるのに、何は春がいい秋がいいのといふ。經驗から來た教へであらうけれど、松を移すのに、根へす
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