主婦としてこの世に在るやうにお思ひ遊ばして居られるやうでございますが、K・Rは今地下に靜に眠つてをります。Rさんは酒田のH家のやゝ遠い親戚として其H家を檀家に持つ大きいお寺の末の娘に生れました。ほんとに箸より重い物を持たない位にしてはぐくまれたのでした。けれど、Rさんは小さい時から寂しい人でした。私とは一つちがひのいとこで、家もすぐ近くで學校さへ一年ちがひの身でゐながら、十四で早くも詩集を手にして校庭の松蔭で寂しさうに考へ深さうに讀み耽つてゐるRちやんと、ラケツト手に飛びまはるおてんばの私とは、しつくりしませんでしたが、女子文壇へ盛んに投書したのは女學校を卒業する十七の春ごろからで、十八の秋『見知らぬ人に添ふ』と淋しみながら若い人妻となつて轉々しました。三人の子の母となつて幸福に暮しましたけれど、四人目の姙娠中再び起ちがたき病に罹り、人工流産をすゝめられながら、母の偉大な愛からそれを厭つて遂に三年前小さき者を生むと其まゝ、小さき者と共に逝きました。
ほんとに美しい神經質の人で、背は低うございましたけれど、美しい眉、そして考へふかさうな瞳など、思ひ出しては涙なしではゐられません。
殘る子
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