子さんと連れ立つてそばへ來て、小さな聲で『Rさんはおなくなりですよ』と、厚ぼつたい封書を私の手へ置いて行つた。
會は終つてゐた。三々五々散り行く人々のうしろで、若い長髮のいくたりかが怒濤のやうなコーラスの下で踊つてゐた。私は幕のかげに坐つてゐた。
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しかし私の申上るのは其事ではありませぬ、K・Rそれは私の亡き妹の名です。
河井さんを中心として幾多の少女が熱情を詩や文にもらした時代を思ふと夢のやうです。私もあの頃は「文章世界」や「ハガキ文學」で妹と競爭的に書いたものでした。夢の國からわづかに世界を見て失望の極家を出ようとした時、仙臺で妹が離れ行く魂を書いたのもあの頃でした。いろんな事があります。併し今は何もいひたくありません。只七月上旬T少佐の妻として三年忌を務めたことを申上ればそれでいいのです。靜岡で息を引きとる枕べに坐つて、泣叫ぶ長女何にも知らぬ次女と長男、兄としての愚痴を許して下さい。妹は美くしい眉と瞳を持つてゐました。
[#地から3字上げ]廿四日夕 K・K
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まだお目にかゝりませぬのにK・Rは今も猶平和な
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