を二兩で買つたはいゝが、はけ口が無いのでひきとらずにゐると、邪魔氣だから早くひきとれと矢釜しくいひます。元値の二兩でいゝから買つてくれ』と龜さんから申込まれて買つた。わたし二間はあらう二人では擔ぎきれなかつた。
 が龜さんにはひどい目にも逢ふ。「庭中の木を八圓で」買つたのはよいが、龜さんが植ゑてくれた、片ぱしから枯れて、殘つたのは、榧の木一本。花やかな木蓮もをしかつたが沈丁華の大株も惜しかつた。
 石榴は鈴生に生るが、子供らはあまり欲しがらない。酸いは梅もおなじだが、どうしたわけか。
『おらいの柊は』と常さんがよくいふ。常さんが家の柊は自慢だけあつて、凡二三百年はたたう。枝は地上七八寸のところから出て、上は球に刈りこんである。二百五十圓なら賣るといふ。出入先で納屋を作るのに邪魔だから伐るといふのを四圓五十錢で買つて、途中橋が渡れず、遠まはりしたり何かして十圓程はかゝつてゐるといふ。私の庭にあれがあつたならと思ふ。人の木を數へるやうになつては私もおしまひだ。
 十月一日。連日の曇が雨となる。百合子に『レーンコートを持つて、停車場まで姉ちやんを迎へに行けるか』と聞いてみる。行けるといふ。尤
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