毎日學校へ通つてゐる道だ。『そりや偉い。糸子姉ちやんは雨具なしで下館から來るのだからね。妹が姉を迎へに行くつて、立派な事だ』とほめると、レーンコートを頭からすつぽり被つて、姉のを脇にかかへて、雨の中を出て行つた。あとから妻を見にやる。『もう半分道行きましたよ、せつせと、勇んで』
夜、電燈の下で三人の子と遊ぶ。こなひだのお祭りで猿の芝居を見たが、猿のお尻はどうして赤いのと、末の五つの兒にきかれた。
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東筑波の山火事は
西吹く風にあふられて
お山の上はめら/\と
紅い煙がひろがつた
草が燃えるか木が燃えるか
晝はぼやけて見えねども
日暮となれば一面の
火の山火の峰まつかつか
かはいや高い木の上に
栗鼠は姿を見せてたが
雉はけん/\子を置いて
涙ほろ/\飛び立つた
爪もはさみも花のよな
小蟹は澤にかくれたが
猿のお馬鹿さん逃げもせず
お尻ちくりとやけどした
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『それで赤いのよ』
『そう、お猿、やけどしたの』
『あゝ』
底本:「雪あかり」書物展望社
1934(昭和9)年6月27日上梓
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2003
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