、梯子無しに登れたのが、「平川戸の爺」といふが庭はきしてる頃、箒を使ふのに邪魔だと、下の枝からだん/\に伐つて、ずんぐりにしてしまつたのだといひ傳へる。枝の痕がたがひちがひに瘤々になつてずつと上まで續いてゐる。
 小さんのはなしに、庭師の八五郎が殿さまの前へ呼ばれて松を移すことをいひつかる、八五郎しどろもどろに御座り奉つて三太夫をはら/\させるといふのがあつた。其の時八五郎は松に酒を呑ませ、根へするめを卷いて引けば枯れないと説いてゐたが、私の雇つた留さんも「松に呑ませる酒」を買はせた。するめは忘れたかしていはなかつた。前にも入口の松の赤くなつた時、酒を呑ませれば生きかへると、薄めてかけたが、不思議にみどりの色をとり戻した。根へ酒を注ぐ、土に泌みる、泌みて腐る、何か肥料の成分となるのであらう。それにしては松に限つて酒がいるのはどうした理くつか、讀めない。するめに至つては猶さらだ。

 五葉に劣らぬふるい木にもつこく[#「もつこく」に傍点]がある。これも長年手入をしないので、のび法題にはなつてるが、むかしから少しも太らない。子供の時分兄とふたりで「とりもつち」をこさへる爲に皮を剥いたことが
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