《あこう》の枝に秋たけて
雎鳩《みさご》夜鳴く蹉※[#「足へん+它」、第3水準1−92−33]の島
珊瑚の床のなめらかに
千重敷《ちへしく》浪ぞ限り無き

西へ西へと行く月を
見れば流石に泣かるれど
青石《あをいし》築《きづ》く墓ならで
陸には居らむ家も無く

南に遠き八重山の
島根を洗ふ黒潮に
流れも寄るか橘《たちばな》の
花は常世《とこよ》に馨るらん

月に天《あま》ぎる明方《あけがた》の
峰の花こそこぼれ來ね
浮べる舟の閨《ねや》の外《と》に
綾の霞の繞《めぐ》れるを

海《うみ》の門《と》渡る雁金の
翼を空に羨むも
八重の汐路のいづれにか
浪を凌《しの》ぎて歸るべき

行かんか舟は輕かるに
錨の綱を捲きあげて
碎かば石に金色《こんじき》の
輝く島も無からずや

角いかめしき馴鹿《となかひ》に
橇《そり》を引かせて雪の野に
天をかざれる紅の
北の光を仰ぐべく

月落ちかゝる黒龍江《あむーる》の
巖の上に虎吼えて
君|柔肌《やははだ》に粟立たば
わが手に縋《すが》れ劒あり

行方跡無き不知火《しらぬひ》の
筑紫の海に生れては
氷の山に海豹《あざらし》の
牙を磨くに膽消えん

砂にま
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