なん子ゆゑに
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なづさふ野火
白雲低き足柄の
山は遙に亙《わた》れるを
いかゞ越えけむ西風に
雁鳴く野とはなりにけり
緑《みどり》沈《しづ》める川上《かはかみ》の
峽《かひ》よりかけて斷續《きれ/″\》に
見ゆる林のおぼろ/\
秋|際無《はてしな》き霧の海
踏《ふ》むに音せぬ曉の
茅萱《ちかや》の露に眉ぬれて
行けども寢《いぬ》る家無き子の
慰藉《なぐさめ》失《う》せし野に立てば
光をつゝむ青雲の
向伏《むかぶ》す極み秋は來て
長《なが》き堤《つゝみ》の東《ひんがし》に
殘れる月の纖《ほそ》きかな
「今は別れとなりにけり
母よ」と呼べど言《ものい》はで
父と並べる墓《おくつき》の
涙は終に見ざりしか
路遠くして獨《ひとり》行《ゆ》く
旅は心のさびしきを
尾花亂るゝ古里に
遺《わす》れし妻を戀ふれども
さもあれ馴れし小月波《おつくば》の
山は霧より現はれぬ
山は霧より現はれて
朝《あさ》はふたゝび此《こゝ》に在《あ》り
風は胡蝶の羽翼《はね》を裂《さ》き
霜は猿《ましら》の食《かて》を奪《うば》ひ
秋|老《お》いにける朝毎《あさごと》に
うつろ
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