行船も
  紅の
流れし中に
  隱れけり

鏃は天に
  とゞまりて
新たに星と
  生《な》りにけむ
おぼめかしくも
  北の方に
落る光の
  弱きかな

野火により來る
  小牡鹿の
外山に啼くは
  聞ゆれど
鴎下り居し
  白濱の
潮に朝の
  聲絶えて

貴艶《あて》なる嫦娥《ひめ》の
  顏は
さし出づる月の
  色に見えて
露置きそめし
  秋の野に
夕の聲の
  かすかなり


  哀歌


羅綾《られう》の裳裾《もすそ》かへしては
春を驕《おご》りし儷人《れいじん》の
腰に佩《お》びたる珠《たま》鳴りて
秋|燕京《ゑんきよう》にたけてけり

霜こそ置かね天津の
橋に見馴れぬ旗立ちて
紫深き九重の
雲もかへるか峽西に

陽明園《はこやのやま》に炬《ひ》入《い》りては
玉の宮居も燒けつらん
蓮葉枯れし夕暮の
池に舟|行《や》る人もなし

金房垂れし鞦韆《ふらこゝ》に
みだせし髮はをさめじな
西に流るゝ天の川
曉《あかつき》浪《なみ》の驚けば

永安門《えいあんもん》の階段《きざはし》に
落ちたる花は誰が妻か
脛も血潮に染めなして
劒ぞ胸に刺されたる
  〜〜〜〜〜〜〜
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