の奧にひとりのみ
立つに似たる悲みは
忘るゝからにわりなくも
落る涙のとゞまらで
常陸より
(人の武藏に居るに)
玉藻|被《かつ》ぎて美人《たをはめ》の
狐と化ける篠原や
奈須野の南石裂けて
常陸に落つる小貝《こかひ》川
物皆沈む誰彼《たそがれ》の
霞の底を流れては
ほの/″\明くる東雲の
柳の蔭に渦きて
翠の山を山比女《やまひめ》の
帶と※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]れる川なれば
葦茅《あしかび》萠えて芹《せり》秀《ほ》きて
川にも春の光あれ
朽木の洞《うろ》に隱れたる
蝴蝶の夢は長うして
羽拔けかへし連雀《をながどり》
翔るも舞ふも雲の上
菜種の花に圍まれて
寂《しづ》けき森の北南
村と村とは長橋の
橋を隔てゝ望めども
南の村にわれ生れ
北の村より君出でゝ
額に垂れし放髮《かぶきり》の
髮の端にも觸れずして
われまだ君の眉を見ず
見しは堤の花すゝき
君亦われの顏相らず
知るは堤の木瓜《ぼけ》の花
あゝ幾年青き草濡れて
堤を花の飾るらむ
雨はしづかにそゝげども
人は歸らぬ故郷に
櫟《くぬぎ》の林分け入りて
われ山繭《やままゆ》を採りし時
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