川の
石皆圓き川の上
雪と漲る浪の戸に
赤裳かゝげて立ちたると――
西京《みやこ》に近き荒寺の
崩《やれ》し築土《ついぢ》に身を寄せて
森の公孫樹《いてふ》に落る日の
光に泣きし尼君も――
燈籠舊りし石階《きざはし》を
鹿に恐れて驅け上り
紅潮しゝ頬の色の
花の如くに光《て》りたると――
人は往けり還りけり
とゞろと渡る花車
蜘手の道の遠くして
のこるは暗き花の影
野守の鏡
面銹びて
形象《かたち》を落す
雲も無し
還らぬ人の
一人にのみ
神は戀ふるを
許せども
葭原雀
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鬼怒川に近き小村に、母のゆかりを尋ねて、さすらひ來しポルチカル人の孤兒あり、夕ぐれ其門を過りて
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夕靜けき菅生野《すがふの》を
たなびきかくす旗雲の
紅きを見てはしかすがに
もろき涙も落しけむ
千重敷《ちへしく》浪《なみ》に漂ひて
眞舵《まかぢ》しゞぬき漕がんとも
テグスの川に入らんには
餘りに遠き旅なれば
有明の月の消えかゝる
鬼奴《きぬ》の河原にさまよひて
かぎろひ燃ゆる紫尾《しを》が嶺《ね》の
峰照る星を仰ぎ見ば
空より來
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