川の
石皆圓き川の上
雪と漲る浪の戸に
赤裳かゝげて立ちたると――

西京《みやこ》に近き荒寺の
崩《やれ》し築土《ついぢ》に身を寄せて
森の公孫樹《いてふ》に落る日の
光に泣きし尼君も――

燈籠舊りし石階《きざはし》を
鹿に恐れて驅け上り
紅潮しゝ頬の色の
花の如くに光《て》りたると――

人は往けり還りけり
とゞろと渡る花車
蜘手の道の遠くして
のこるは暗き花の影

野守の鏡
  面銹びて
形象《かたち》を落す
  雲も無し

還らぬ人の
  一人にのみ
神は戀ふるを
  許せども


  葭原雀
[#ここから4字下げ]
鬼怒川に近き小村に、母のゆかりを尋ねて、さすらひ來しポルチカル人の孤兒あり、夕ぐれ其門を過りて
[#ここで字下げ終わり]


夕靜けき菅生野《すがふの》を
たなびきかくす旗雲の
紅きを見てはしかすがに
もろき涙も落しけむ

千重敷《ちへしく》浪《なみ》に漂ひて
眞舵《まかぢ》しゞぬき漕がんとも
テグスの川に入らんには
餘りに遠き旅なれば

有明の月の消えかゝる
鬼奴《きぬ》の河原にさまよひて
かぎろひ燃ゆる紫尾《しを》が嶺《ね》の
峰照る星を仰ぎ見ば

空より來
前へ 次へ
全52ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横瀬 夜雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング