だ殘る北の海の
浪は碧《みどり》に騷ぐらむ

南の丘に蝶飛んで
薔薇の花の匂ふ時
湧きもめぐらふ新潮に
島は輝き見ゆるかな

尾上の櫻野の霞
花の帷《とばり》の中絶えて
火の環《わ》かざれる秀《ほ》つ峰の
朝の空に立つ見れば

靈嶽《くしぶるたけ》の頂に
虹の七重は踏まねども
仰げば額《ぬか》に天《あめ》なる
光の添はる心地して


  人故妻を逐はれて


水の上飛ぶかげろふの
羽を※[#「魚+完」、第4水準2−93−48]《やまめ》の透かし視て
尾上の花や散りくると
ひれ振り尾振り跳るらむ

雲のはたてに月|沒《い》りて
沼に光の消えにけり
濕れる棹を手にすれど
さすは※[#「木+世」、第3水準1−85−56]無き藻苅舟

月波に燃ゆる紅の
八雲は山の陰毎に
殘れる夜の雲染めて
二つの峰は清らなり

堤は低し木は荒し
西北《いぬい》に亘る山浪の
黒髮山に誰妻の
うす絹|被《かづ》く眉にせむ

朝《あした》たなびく夏霞
不二は夏より見ゆるてふ
沼の半に漂ひて
霞にきらふ船路かな

菱の實落つる沼なれば
白羽の鳥も翔るなり
羨ましきは羽すりて
雌雄共に棲む白鳥よ

船の動くにつと迯げて
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