つきおぼろ》擧羽《あげは》の海《うみ》の
陽炎《かげろふ》は夢ときえしを
閨の戸に櫻ゑがいて
山翠《やませみ》は籠にかふべく

裡《うち》にしてさゝやき交す
窓懸の絹の薄きに
朝朗明《あさぼらけ》流るゝ星の
碧《あを》きをか寫し留めむ

棹《さを》さし上る獨木船《まるきぶね》
路は遠し百七十里
歸らぬ水に枕重ねて
秋となりぬる旅路哉

石狩岳の麓より
流れて落る大川の
下つ瀬遙かにたなびく雲は
明くればみ岳の腰をめぐりて

浪|際《はてし》無き津輕灘
海門《うみのと》近く櫂《かい》行《や》るも
炎ひらめく宇曾利山《うそりやま》
見ゆるは奧《おく》の煙のみ

光さやけき黄金《わうごん》の
月を浮ぶる那智《なち》の海
北の島根に遠《さ》かり來て
迷ふと憂しやたゞ一人

我に梓《あづさ》の弓あらば
白羽の征矢《そや》を手挾みて
殘んの星の影白む
岩見の澤に鳥狩《とがり》せむ

雨はね反《かへ》す※[#「肄」の「聿」に代えて「欠」、第3水準1−86−31]冬《ふき》の葉を
※[#「舟+少」、157−下−7]《かひろ》ぐ船におほひては
手捕《てどり》にすべき鱒の子の
淺瀬の水にをどれども

潛龍
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