水|涸々《かれ/″\》の石川に
秋は肥たる鮠《はえ》の子を
小笹に貫《ぬ》きてさげかへるも
匂へる眉は戸に見えで


  沼にて


蓮の浮葉かきわけて
棹さしめぐる湖や
落る日天の雲染めて
夕の浪は靜なり

筑波も暮れぬ野も暮れぬ
唄も暮れぬる藻刈船
しなへる棹を操りて
行くべき方も暮れにけり

柳垂れたる江のほとり
橋かけ通る裸馬
うち放《はな》らかす鬣の
黒きも水に洗はれて

手綱控ふる若者の
鉢卷白し秋の風
橋と舟との上にして
戀もあれかし耻かしの
  〜〜〜〜〜〜〜


  落し水
    (山内冬彦をいたむ)


夏野の露の朝ぼらけ
靈夢《くしぶるゆめ》はさめにけり

喚《よ》べどかへらぬ隼の
深山の雲に鳴くと見て

宵の燎火《かゞりび》白々と
土橋の爪に消えのこり

蜘手に開く小田の路
野は露ならぬ草も無し

堰に落ち込む落《おと》し水
秋は小川に迫り來て

黒髮《くろかみ》山は朝曇
曇りて北に見ゆれども

花は子《み》となるうす櫻
彌生《やよひ》をかけて夏草の

霧の深きを踏む程《まで》の
命は神のゆるしけむに

何しに人の今日死して
雲の薄きに泣かすらむ

われ
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