て
築きし墓は荒れにたれ
獵矢《さつや》手挾み鹿《かこ》追ふと
森に落《おと》しけむ久米《くめ》の子が
耳朶《ほたれ》に懸けし金《こがね》の
鐶《たまき》は雨に腐《くた》されて
丹《に》を頬《ほ》に粉《ぬ》りし未通女子《をとめご》の
文《あや》ある袖も黒髮と
殯《あらき》の宮に歛《をさ》めしより
千年《ちとせ》の土となりにけり
櫻が下の曙に
春の旅こそ終りけめ
秋は如何なる風吹きて
露より霜と結ぶらむ
行けども行けども歸らざる
人を送りて野は青く
野は青くして亂れ飛ぶ
花の行方は幻の
〜〜〜〜〜〜〜
森の家なる
(姉の行きたるは十五歳の春なりき)
母が乳房の珠ならで
許されざりし唇は
巖が根纏ふ山百合の
皎《しろ》き花にも觸れずして
二歳《ふたつ》まさりの姉君は
月|圓《まとか》なる春の夜を
栗毛の駒に鞍おきて
森の館《やかた》に嫁ぎけり
鶉《うづら》隱れし叢《くさむら》に
卵探すと掌《たなそこ》を
茨《ばら》にひきさく野人《のゝひと》の
われは雄々しき兒なりしか
寂《さび》しさ知りて麥笛を
霞の丘に鳴らせども
美し人は青麥の
青きを分けてあらはれ
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