《あらゝぎ》に
懸れる虹の橋ならで
七篠《なゝすぢ》の光、筑波根の
上を環《めぐ》れる夕暮や

雪と輝く薄衣《うすぎぬ》に
痛める胸はおほひしか
朧氣《おぼろげ》ならぬわが墓の
影こそ見たれ野べにして

雲|捲上《まきあぐ》る白龍《はくりう》の
角も割くべき太刀佩きて
鹿鳴《かな》く山べに駒を馳せ
征矢鳴らしゝは夢なるか

われかの際《きは》に辛うじて
魂、骸を離るまで
寂しきものを尾上には
夜は猿《ましら》の騷がしく

水に映らふ月の影
鏡にひらく花の象《かたち》
あこがれてのみ幻の
中に老いたるわが身なり

月無き宵を鴨頭草《つきくさ》の
花の上をも仄《ほの》めかし
秀峰《ほつみね》光《て》らす紅の
光の末の白きかな

縋《すが》りて泣かん妹の
萎《しを》れし花環《はなわ》投げずとも
玉の冠か金光《きんくわう》の
せめては墓に輝かば


  殯宮
    (本尾秋遊の死を悼む)


東の海に出づる日は
西なる山に沒《かく》るれど
沒《かく》れぬ光《かげ》は天雲《あまぐも》の
五百重《いほへ》の遠《をち》に射渡るを

虚《むな》しき空に紅の
霞流るゝ沙《すな》の上
丘の高きに石を敷い
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