蠶兒の糸を吐いて盡きざる如くなるや。
已にしてまた之を想ふ、人生れて疾を天に享く、素より極めて悲むべし、然れども人生れて才藻の嬖寵を詩神に享くるに至りては、世孰れか之を庶幾し、之を望んで得るものぞ、天地たゞ僅に一の詩人あり、よく足を※[#「足へん+繞のつくり」、152−下−8]て※[#二の字点、1−2−22]以て、此の祝福を保つを得べし、夜雨已に身病ありと雖も、家庭穆々として家に慈なる父母あり、悌なる令弟あり、書窓五頃の庭以て地の花を養つて目を慰むるの資となすに足るなり、これ已に至福、况んや心の花の才華燦爛、心を慰むるの資、しかく深くして、しかく大なるものあるをや、あ※[#二の字点、1−2−22]夜雨、果して生を禀くるの至幸ならずと云はんや、至幸ならずと云はん乎。
[#地から2字上げ]辱知 江東生
[#ここに花園の挿絵あり]
[#改ページ]
夕の光
堤にもえし陽炎《かげろふ》は
草の奈邊《いづこ》に匿《かく》れけむ
緑は空の名と爲りて
雲こそ西に日を藏《つゝ》め
さゝべり淡き富士が根は
百里《ひやくり》の風に隔てられ
麓に靡く秋篠の
中に暮れ行く葦穗山
雨雲覆ふ塔
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