《ほころ》びし
ころも手に
涙の痕の
しるくとも
うき世にあさき
我なれば
君もさのみは
とがめじ
――花なる人の
戀しとて
月に泣いたは
ゆめなるもの――
つらけれど、紅葉
綾なす葦穗ろの
麓に今は
歸らうよ
破れ太鼓は
叩けどならぬ
落る涙を
知るや君
〜〜〜〜〜〜〜
竺志舟
新妻の卷
浪を離るゝ横雲の
壞《くづ》れて騷ぐ松浦や
※[#「辟+鳥」、第4水準2−94−44」※[#「虎+鳥」、179−上−5]《かいつぶり》飛ぶ姫島の
沖より白む朝ぼらけ
片帆下せし港江に
つらなる水の青うして
影消え殘る一つ星
北の海こそ遙かなれ
煙は迷ふ島原の
野母《のも》の岬の潮さゐに
小舟やるとて腰みのを
絞るになれし我ならん
鴎《かもめ》かくるゝ荒磯に
蝉口《せみぐち》しめて眺むれば
石迸る火の山の
照先《ほさき》閃めく海の上
卒倒婆《そとば》流せし薩摩潟
小島の沖に漂ふも
竹もて編みし小枕に
ゆらるゝ夢の安きかな
艫《とも》より落ちていくそ度
母の熊手にかゝりけん
凧をへさきに飛ばしては
糸は潮にぬらせしを
榕樹《あこう》の枝に秋たけて
雎鳩《みさご》夜鳴く蹉※[#「足へん+它」、第3水準1−92−33]の島
珊瑚の床のなめらかに
千重敷《ちへしく》浪ぞ限り無き
西へ西へと行く月を
見れば流石に泣かるれど
青石《あをいし》築《きづ》く墓ならで
陸には居らむ家も無く
南に遠き八重山の
島根を洗ふ黒潮に
流れも寄るか橘《たちばな》の
花は常世《とこよ》に馨るらん
月に天《あま》ぎる明方《あけがた》の
峰の花こそこぼれ來ね
浮べる舟の閨《ねや》の外《と》に
綾の霞の繞《めぐ》れるを
海《うみ》の門《と》渡る雁金の
翼を空に羨むも
八重の汐路のいづれにか
浪を凌《しの》ぎて歸るべき
行かんか舟は輕かるに
錨の綱を捲きあげて
碎かば石に金色《こんじき》の
輝く島も無からずや
角いかめしき馴鹿《となかひ》に
橇《そり》を引かせて雪の野に
天をかざれる紅の
北の光を仰ぐべく
月落ちかゝる黒龍江《あむーる》の
巖の上に虎吼えて
君|柔肌《やははだ》に粟立たば
わが手に縋《すが》れ劒あり
行方跡無き不知火《しらぬひ》の
筑紫の海に生れては
氷の山に海豹《あざらし》の
牙を磨くに膽消えん
砂にまみれし青貝《あをがひ》を
拾ひて憂《うさ》を遣らんとも
松浦《まつら》戀しくなりぬ時
あはれならまし花の妻
翼しをれし五位鷺《ごいさぎ》の
雨を怨みて帆柱に
鳴くは濱べの雌をや呼ぶ
かすめる山は笹島か
手箱に秘めし花ぐしを
忘るともなく君さゝで
あたらほつれし前髮よ
白き額はかくさゞれ
思へばつらき浮寢にも
花なる人にともなひて
行きて別るゝ
涙無く
後《おく》れてぬらす
衣《きぬ》無きに
空も水なる
大海《わだつみ》に
わが漕《こ》ぐ舟を
誰か遮《さへぎ》る
浮寢の卷
羨まし
誰をみ空の流れ星
暮るれば出て
光知るらん
暮るれば出る星ならで
篷をおほへる浮舟の
千鳥鳴く夜を妹許と
知らじな親は船にして
尾花が袖に露しげき
朱雀《すじやく》の野べの秋は不知《いさ》
のれる星棧《うきゝ》は輕かれど
たやすく浪にかへらんや
龍頭《みよし》にかゝる九曜星《すまるぼし》
光は霧にまよひつゝ
櫓《ろ》の音《と》ぬすみて笹島の
澳《おく》に入り行く小舟ありき
あじさし翔《か》ける白濱《しらはま》に
沈める珠を探るとて
若き乳房も仇浪の
なぶるになれし海士《あま》の子よ
額《ひたひ》にかゝる前髮の
みだれそめしが戀ならば
京の紅《べに》とや唇に
さゝねど人を戀しけむ
秋雨そゝぐ※[#「舟+令」、第4水準2−85−68]《ふなまど》に
彈《ひ》くべき琴も持たねども
三重卷く帶の端《はし》長く
けぶれる髮の美しう
* *
* *
めぐるに早き春の夜の
月は東に歸りけり
八重の潮路のたゞ白く
秋は光の寒きかな
手繰《たぐ》りし綱に枕して
ひそかに衿《えり》をぬらすとも
春かへり來る中空に
夢のおもかげ殘るらん
終に別るゝ殘懷《なごり》なき
星合《ほしあひ》の空にはろ/″\と
あこがれ渡る釣人《つりびと》の
涙は頬《ほゝ》に流るれど
※[#「爿+可」、181−下−19]※[#「爿+戈」、第4水準2−12−83]《かし》振り立て纜《もや》ひせし
あまのはしぶね音づれて
燎火《かゞりび》白む曉の
鐘こそかすかに響きたれ
水より淡き
月《しまぼし》の
影は仄《ほの》かに
殘りたり
輪廓《さゝべり》燃ゆる
紫の
八雲《やくも》棚引く
和田の原
朝日《あさひ》を洗ふ
浪の穗に
輝く光
くづれては
空を貫《
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