べつ甲蜂
横瀬夜雨

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)針毛《はりげ》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「りぼん」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例))ねば/\して
−−

 春さき、はんの木山を歩くと、かげろふの糸のやうな白い毛がふわりと飛んで來て、顏や頭にひつかかる。ねば/\してうるさいので、取りすてようとしても中々離れぬ。地震蜘の糸だ。いぼとり蜘とも言つてゐる。巣へさはると、おこつて網全體を震動させる。はじめ巣をかける時、五六尺位長い糸を尻から手ぐり出して、空中に飛ばすのである。飛ばされた糸が何かに引つかかると、蜘の巣の幹線となるのだ。高い處からぶらんこして遠くへ渡す糸は大してねばらない、飛ばして引つかける糸は必要上ねばるやうに見える。林中を歩む時、毛蟲から針毛《はりげ》を植ゑられることには驚かないが、この蜘の糸には弱らされる。和漢三才圖會に、或る蜘の吐いた糸で前の物を縛ると其處から腐つて落ちるとあつたが、まんざら跡方のない話でも無ささうである。
 熊蜂《だいきち》を投
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横瀬 夜雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング