げて見ると、掴まへると同時にりぼん[#「りぼん」に傍点]のやうな廣い糸を尻から繰り出して、くる/\と蜂をまはし/\眞白に卷いてしまふ。熊蜂を放りあげると、引つかかつた糸を切り放して蜂を落してよこすし、でなければ蜂の羽や脚には蜘の巣にへばりつかぬ作用でもあるかして、網のはしまで歩いて來てひとりで離れてしまふ。さいかち蟲やかぶと蟲でさへ、どうかかうか喰つて角や羽だけ下へ落すけれど、蜂には先天的にまゐつてゐるらしい。蜂の方でも隨分遠くまで尺とり蟲を探して歩くのを見かけるが、蜘の巣だけはなるたけ避けて通るかに見える。
 ただ一種蜂の中のべつ甲蜂だけは蜘を捕る。

 ある日の事だ、私は裏庭の日ざしを戀ふて離れの縁に坐つて、見るともなしに榧の木末を仰ぐと、おいらん蜘が中天にかかつてゐる。日ざしのせゐで網は見えない。榧の木の洞に寄生した棕梠は枯れたか知らと見當をつけて探すあたりに、一匹のべつ甲蜂がひよつくり飛んでゐる。と小石のやうに、一直線においらん蜘の網のあたりに、突きあたる。忽ち網にひつかかつた。と見るが早いか蜘は電光の如く蜂に飛びついた。蜘と蜂は一かたまりになつて、私のぢき手前三尺とも隔たらぬ
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