も、相手の心根を読んで掛引をすることばかりを考えている商人は、すぐ、その胸の中を見ぬいた。そしてそれに応じるような段取りで話をすすめた。彼は戦争をすることなどは全然秘密にしていた。
十五分ばかりして、彼は、二人の息子を馭者にして、ペーターが、二台の橇を聯隊へやることを承諾さした。
「よし、それじゃ、すぐ支度《したく》をして聯隊へ行ってくれ。」彼は云った。
「一寸《ちょっと》。」とイワンが云った。「金をさきに貰《もら》いてえんだ。」
そして、イワンは父親の顔を見た。
「何?」
行きかけていた商人は振りかえった。
「金がほしいんだ。」
「金か……」商人は、わざと笑った。「なあ、ペーター・ヤコレウイチ、二人の若いのをのせてやりゃ、金はらくらくと儲《もうか》るじゃないか。」
イワンは、口の中で、何かぶつぶつ呟《つぶや》きながら、防寒靴をはき、破れ汚れた毛皮の外套《がいとう》をつけた。
「戦争かもしれんて」彼は小声に云った。「打ちあいでもやりだせゃ、俺《お》れゃ勝手に逃げだしてやるんだ。」
戸外では若い馭者が凍えていた。商人は、戸外へ出ると、
「さあ、次へやってくれ!」と元気よく云った
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