ならなかったか? ロシア人を撃退したところで自分達には何等の利益もありはしないのだ。
彼等は、たまらなく憂欝になった。彼等をシベリアへよこした者は、彼等がこういう風に雪の上で死ぬことを知りつつ見す見すよこしたのだ。炬《こ》たつに、ぬくぬくと寝そべって、いい雪だなあ、と云っているだろう。彼等が死んだことを聞いたところで、「あ、そうか。」と云うだけだ。そして、それっきりだ。
彼等は、とぼとぼ雪の上をふらついた。……でも、彼等は、まだ意識を失ってはいなかった。怒りも、憎悪も、反抗心も。
彼等の銃剣は、知らず知らず、彼等をシベリアへよこした者の手先になって、彼等を無謀に酷使した近松少佐の胸に向って、奔放に惨酷に集中して行った。
雪の曠野は、大洋のようにはてしなかった。
山が雪に包まれて遠くに存在している。しかし、行っても行っても、その山は同じ大さで、同じ位置に据っていた。少しも近くはならないように見えた。人家もなかった。番人小屋もなかった。嘴の白い烏もとんでいなかった。
そこを、空腹と、過労と、疲憊《ひはい》の極に達した彼等が、あてもなくふらついていた。靴は重く、寒気は腹の芯にまで
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