汲んで貰うんじゃ。勿体ないこっちゃ。」と呟きながら、大便を汲んで掘り返した土の上に振りかけた。
「これで菜物がよう出来るぞ!」
「御精が出ますねェ。」園子は二階から下りて来て愛嬌を云った。
「へえェ。」じいさんは田舎の旦那に云うような調子だった。
「何かお植えになりますの?」
「へえェ。こんな土を遊ばすは勿体ないせに。」
「まあ、御精が出ますねえ。」そう云って、園子はそっと香水をにじませた手巾《ハンカチ》を鼻さきにあて、再び二階へ上った。きっちり障子を閉める音がした。
「お前はむさんこ[#「むさんこ」に傍点]に肥《こえ》を振りかけるせに、あれは嫌うとるようじゃないかいの。」ばあさんは囁いた。
「そうけえ。」
「また、何ぞ笑われたやえいんじゃ。」
「ふむ。」とじいさんは眼をしばたいた。
「臭いな、こんじゃ仕様がない。」清三は会社から帰ると云った。「菜物なんか作らずに草花でも植えりゃえい。」
「臭いんは一日二日辛抱すりゃすぐ無くなってしまう。」
「そりゃそうだろうけど、菜物なんかこの前に植えちゃお客にも見えるし、体裁が悪い。」
「そうけえ。」じいさんは解しかねるようだった。
「きれいな草花
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