えてあった薪などを、親戚や近所の者達に思い切りよくやってしまった。
「お前等、えい所へ行くんじゃ云うが、結構なこっちゃ。」古い箕《み》[#ルビの「み」は底本では「みの」]や桶を貰った隣人は羨しそうに云った。「うら[#「うら」に傍点]等もシンショウ(財産のこと)をいれて子供をえろうにしといた方がよかった。ほいたらいつまでもこんな百姓をせいでもよかったんじゃ!」
「この鍬をやるか。――もう使うこたないんじゃ。」為吉は納屋の隅から古鍬を出して来た。
「それゃ置いときなされ。」ばあさんは、金目になりそうな物はやるのを惜しがった。
「こんな物を東京へ持って行けるんじゃなし、イッケシ[#「イッケシ」に傍点](親戚のこと)へ預けとく云うたって預る方に邪魔にならア!」
「ほいたって置いといたら、また何ぞ役に立たあの。」
「……うら[#「うら」に傍点]あもう東京イ行《い》たらじゝむさい手織縞やこし着んぞ。」為吉は美しいさっぱりした東京の生活を想像していた。
「そんなにお前はなやすげに云うけんど、どれ一ツじゃって皆な銭《ぜに》出して買うたもんじゃ。」
 じいさんはそんなことを云うおしかにかまわず、篩《ふる
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